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〜イギリスピアノ音楽シリーズT〜
レノックス・バークリー
ペイサージ レイモンド・モーティマーへ (1944)
 

バークリーは英国の作曲家ではありますが、父方はスコットランドとフランスに起源を持つ家系でしたので、パリでの生活などあらゆる面でフランス文化が根底にあり、第二次大戦中ナチスの占領下にあったフランスの解放宣言は、彼に大きな安堵と喜びをもたらしたに違いありません。この"Paysage"(ペイサージ)は1944年にフランス解放の記念に書かれ、レイモンド・モーティマーに献呈されています。静謐な、透明感のあるこの曲の旋律は一度聴いたら忘れ難い印象を聴き手に残します。曲のオリジナル・タイトルは"Paysage de France"でしたが、後に"Paysage"に変えられました。作品の初演は1945年、2月20日にロンドンのファイビー・ホールにてバークリーの歌曲などと共に作曲家自身の演奏で果たされましたが、出版はバークリーの没後、2年経過した1991年まで実現されませんでした。この頃、バークリーの身の回りでいくつかの変化が見られます。1945年はバークリーがBBCラジオ局のプログラム・プランナーを辞めた年でした。また翌年1946年、12月14日には当時BBCで秘書として働いていたフリーダ・バーンスタインと結婚しています。そして同年にバークリーはその後、22年間務めることになる王立音楽院(RAM)作曲科の教職に就くことになります。フリーダとレノックスの間に三人の息子、長男のマイケル(1948)、次男のジュリアン(1950)、そして三男のニコラス(1956)が誕生しました。長男マイケル・バークリーのゴッドファーザーはベンジャミン・ブリテンです。(後にマイケルは父親と親しかったブリテンが彼の幼年時代と青年期の基礎と土台になくてはならない存在であり、特に彼への音楽的影響は計り知れなく、申し分のないゴッドファーザーだったことを述べています。)ピアノのための優れた作品を残した英国の作曲家は少なく、後に英国を代表する現代作曲家となったマイケル・バークリーは父親の残した数多くのピアノ作品に大きな価値を見出しています。バークリーがピアノの為に書いた作品は数多く、独奏曲に限らず、二つのピアノ協奏曲、一台4手のピアノの為のソナチネ作品39(1954)、2台の為のソナチネ作品52-2(1959)、そしてピアノを伴う多くの室内楽や歌曲など楽器の中でも特にピアノは彼の作曲活動になくてはならないものでした。


アンダンテ・トランクゥイロ

"ペイサージ"(1944)は第二次大戦中のフランス解放のオマージュとして書かれました。カンタービレ、ホ短調での響きの美しい旋律はノスタルジーを伴い、ある心象イメージを回想しているかのようです。また中間部に高音域で顕れるアクセントを伴う”鐘”のモティーフは曲に一層、哀切な響きを与えています。曲の構成はA(Andante)、B(Un poco piu vivo)、A'(Tempo Primo)で成り立っています。4分余りの小品ですがリリシズムに溢れた印象深い作品です。


試聴用データ→ 「ペイサージ」


井田久美子     2006年 1月

 

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