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〜イギリスピアノ音楽シリーズ〜
 
演奏および解説者略歴→
 
〜はじめに〜
 

魅了される近代、現代の英国ピアノ音楽

時代を遡った16,17世紀のイギリスにはトマス・タレス、ウィリアム・バード、ジョン・ダウランドそしてヘンリー・パーセルのような巨匠が出現しています。その後、2世紀にわたって「音楽のない国」などとそしられることもありましたが、19世紀初頭、20世紀にかけて突然、数多くの優れた作曲家を輩出することになります。イギリスは島国だったので当時の大陸の音楽の潮流には少し遅れたことも事実であったと考えられます。当時、世界の音楽における大勢の中でイギリスの音楽は時代遅れで独創性がなく、エキサイティングではないと考えられたその驚くべき風潮は1980年代頃まで続いていくことになります。ところが20世紀後半ぐらいから徐々にドイツ、フランス音楽一辺倒に偏ることなく北欧、アメリカそしてイギリス音楽などにも関心が持たれるようになりました。「バッハは時代に遅れベートーベンは時代に先んじたが、二人とも作曲家として最も偉大でした。現代主義も保守主義も見当ちがいのものです。何事であれ真実のものでなければなりません。」「音楽は過去の事実の核心を科学が決してできないやり方で示します。芸術は手段です。これによって私たちは魔法の開き窓を通して見ることができ、その背後に何が横たわっているのかが分かります。」これらの言葉は現代イギリス音楽の指導者的存在として慕われたレイフ・ヴォーン・ウイリアムズによるものですが、まさに近現代英国音楽の核心と真髄に触れていることばです。

私が初めて英国ピアノ音楽に触れたのはRAMでの学生時代でした。アーノルド・バックスやレノックス・バークリーは当時のアカデミーで教職に携わっていた為、彼らのピアノ作品に触れるのはごく自然な成り行きでした。実際に何十人もの近現代英国作曲家の名前を知り、その作品群に親しんだのは私が英国に移住してからのことでした。イギリス音楽の歴史的背景、作品や作曲家像に触れられる機会は数多く、それらは英国のアマチュア、プロの各音楽機関、音楽ソサエティー、音大での教育、BBC放送局などに負うところがあるといえるでしょう。様々な英国音楽家のドキュメンタリーや記録は英国が誇りとする遺産に他なりません。英国における聖歌隊伝統の強さにも目を見張るものがあります。ヒューバート・パリーやスタンフォード、ヴォーン・ウイリアムズなど多くのイギリス人作曲家はおびただしい数の合唱曲を聖堂、教会、大学などに所属する聖歌隊のために作曲しました。青少年時代に探求した英国大聖堂の伝統音楽、聖堂の響きの影響が色濃いウィリアム・ウォルトンは聖歌隊作品を残しており、例えば「ベルシャザールの饗宴」(Belshazzar's Feast)は、この聖歌隊伝統に衝撃の新風を巻き起こしました。ウォルトンによる歌曲とピアノ作品が見あたらないことは非常に残念なことです。カンタベリー大聖堂を訪れる時、その聖歌隊伝統は現在においても変わらず、パリー、スタンフォード、ケネス・レイトン、バークリーそしてヒューバート・ハウェルズなど多くの近現代の英国作曲家によるオルガン、聖歌隊作品に触れることができます。

英国音楽の魅力は言葉では言い尽くせませんが、その多くの音楽は、透明感溢れる詩情、英国の田園風景を想わせる牧歌的なもの、自然美の讃歌、敬虔な祈り、デリケートな色調の感覚によるもので、それらは例えば英国文学、詩やイギリス絵画にも反映されるように、(イギリス歌曲は詩と歌が切り離せない、英国音楽における重要な位置を占めています)聴き手に安らぎと充足感をもたらす第一級の音楽と言わざるを得ません。

井田久美子   12月、2005年

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